もちろんSUPER GTは大好きです。複雑に入り組んだ競技規定や車両規定と、それに対応するために綿密な戦略を練るチームや、チームを束ねるメーカーの争い。車体の開発、エンジンの開発は年々先鋭度を増し、時折、2t近くある車両とは思えない速さを見せるレースカー。二名一組という規定もあり、国内の主要レーシングドライバーは勿論のこと、時にはF1グランプリを戦ったドライバーまでが集まる、豪華なドライバー陣。
ル・マンを頂点とするスポーツカー・GTカーの混走耐久レースも大好きです。様々なレーシングカーが、長時間の耐久レースならではの悲喜劇を見せながら、最後には応援していた車もそうでない車も、走りきった車全てに惜しみない賛辞を送りたくなる、耐久レース独特のゴールの時の雰囲気。
全日本F3で若い個性を見つけるのも好きだしFCJでさらに若い子たちの戦いを見るのも好きです。テレビで見るインディカーのレースも好きです(無論もてぎで見られる生のレースも)。F1だって、積極的に見ようとは思わないまでも、テレビをつけてやってたらついつい見てしまいます。
でも、今のフォーミュラ・ニッポンは、それらにも増して大好きです。というか、多分現行のカテゴリーでは一番好きかもしれません。
なぜなら、今回のようなレースが見られるから。しかも、生で。現場で。
いや今回のレースは本当に素晴らしかった。
ブノワのアクシデントは残念でしたけれども、結果的に彼は無事だった、というのがまず一番よかったこと。S字で事故発生の第一報を聴いた時、場所的にサーキットビジョンが見えないから、どんなアクシデントだったかビジュアル的に確認できなかったものの、それまでのピエール北川のいつものテンポ良い喋りが一転、これまでに聴いたことも無いような口調に代わったのを聴いた時、いつものありがちなアクシデントではないことがはっきり判りました。
当然、私だけではなく、気温30度近いサーキットが次第に冷え込むような感覚に包まれ、東コースにいた観客の多くが(見える筈もないのに)西コースの方を見ながら、ただピエールの実況に耳を傾けていました。
とりあえず無事である、という一報が告げられた時、2コーナーからS字にかけてのスタンドにいたお客さんの間で自然にわきあがった拍手。中には、無事の一報を聞いたとたんに安堵で泣き出した女性もいました(ARTAのキャップを被ってHONDA RACINGの応援小旗を持っていたので、ベンの熱狂的なファンというわけではなかったと思われます)。
改めて言うまでもなく、今のフォーミュラ・ニッポンは、メジャーなプロ・スポーツではありません。でも、だからこそ、わざわざ金を払ってサーキットまで見に来るようなファンなら誰もが、昨年のブノワ・トレルイエの圧倒的な速さ・強さ・巧さを知っています。あのベンが、こんな形で私達の前から姿を消すようなことがあってはならない、というのは、あの時あの場にいた人たちみんなの共通した思いだったからこそ、彼の無事を知ったときには、みんなが安堵し、喜んだのでしょう。
レース観戦で大きなアクシデントに遭遇したときにいつも感じることですが、トップカテゴリーに近づけば近づくほど、競技車両のアベレージスピードは高くなります。そして運転しているのもメンテナンスをしているのも生身の人間。時にはミスもある。つまり、アクシデントが100%無くなるということは有り得ないし、さらに一旦アクシデントが起こると、惨事に繋がりかねない。ある意味、見ている側としては、そういうことは想定した上で、それでもなお見に行くのをやめられない。
決して、事故を楽しんでいるわけではないし、むしろバラエティ系のテレビ番組で時々見かける自動車レースのクラッシュ特集のようなものをみると胸糞悪くなる訳ですが、大事故の可能性というのはモーターレーシングの世界ではゼロにはなり得ないことを判っていて、なおレースを見たくてたまらない自分の感性は、どこかおかしいというか、「残酷さ」を感じる部分が麻痺しているのか、と思うことがあります。大きなアクシデントに直面した場合、特にそう感じます。
そのアクシデントの所為で、結果的には2ヒートレースとなった訳ですが、まさに運命の悪戯とはこのことです。
赤旗中断によってレースが2ヒートとなった場合、リスタートまでの間は、基本的に車両に対して「作業」を行なうことはできない筈ですが、今回は、ベンのクラッシュで飛び散った破片を踏んでいる可能性があるため、全車に対してタイヤ交換を行なうことが認められました。
さらに、リスタートによって、各車の間にあったマージンが削られ、アメリカのレースさながらにリードが帳消しになりました。
レースをリードしていた松田次生、アンドレ・ロッテラー、小暮卓史らの「1ピット作戦」採用車は、アメリカのレースのように築き上げていたリードを帳消しにされます。逆にノーピット作戦採用車は、燃費走行に加えて傷んだタイヤを労わるという我慢の走りを強いられる筈が、全開で走っていた1ピット組には追いつけるわ、限界まで消耗し尽くす筈のタイヤは新しいのに交換されるわ、と、圧倒的に有利な状況に。
結果的には表彰台はノーピット作戦採用組の本山、熊、そしてお久しぶりの井出。
気がつけば本山の前には1ピット組しかいないではないか、という状況に気がついたとき、思わず声がでました「うわぁ」本山はこういう荒れ方すると強いとは思ったけど・・・そして3位に入った井出も表彰台で涙ぐんでいました。ピエールも貰い泣き。実況スレでは「井出泣くんじゃないか?」とは言われてたけど、ほんとに泣くなよ!みんな伊沢を称して泣き虫、泣き虫というけれど、考えてみたらARTAで先輩にあたる井出こそ、真の泣き虫かもしれません。
そして何より松田次生。今回のレースを、フォーミュラ・ニッポン史上に残るほどの見応えのあるエキサイティングなレースにしてくれたのは、表彰台の3人には届かなかったものの、圧倒的な迫力の走りで鬼神の追い上げを見せた松田次生に他なりません。
今、鈴鹿サーキットを走らせたら、間違いなく一番速いのはツギヲでしょう。前回の鈴鹿戦では、その速さを持っていながら、「対本山哲」という部分で積極性が見られなかったことに対して苛立ち、随分ひどいことを書きました。今回も同様に、結果的には本山にしてやられた訳ですが、前回と違い、本来ならもっと下に沈んでもおかしくない状況で、走りながらエンジニアと喧嘩(*1)までしてピットを極限まで引っ張り、さらにピットクルーの迅速なピット作業も相俟って、「このままなら8位入賞あたりが精一杯かな」というコースサイドの思い込みを見事に覆しての6位でのコース復帰。その後、苦手なはずのアウトラップでも、後ろから来るオリベイラを押さえ込み(オリベイラ怒ってたねー)、カルボーンにてこずりながらも2コーナー(目の前!)で抜き去り、ファイナルラップの1コーナーでクルムも料理!表彰台まであと一人、残る目の前の井出を寸前まで追い詰めるも、国内復帰後これまでろくな事がない井出も必死でブロック。最後は少々強引なブロック(接触あり)で井出が表彰台を死守しましたが、そこまで井出を追い詰めたツギヲに、スタンドも皆大喜び。
「接近戦に弱いツギヲ」「アウトラップが苦手なツギヲ」とは、もう今回のレースでさようなら。今回のようなレースができる一方で、これまでリタイヤなし・全戦ポイント獲得(他にこれをやっているのは大ベテランのクルムだけ)という手堅さも持ち合わせているツギヲ。このまま手堅くいけば、今季のチャンピオンが本当に見えてきたんではないですか?
そしてシリーズポイントでいつの間にか2位に上がってきた本山。
結局、ツギヲがタイトルを争そうとしたら、最大の障壁となりそうなのは本山、ということですか。リタイヤを含み、ポイントを2戦で取りこぼしていることが、終盤に向けてどう影響してくるか。いやこれからもこのシリーズ、目が離せません。
(*1)レース後の暫定表彰式で、「トーチュウ賞」受賞のインタビューにて、自身でそう語っていました。